An intermediate support organization to develop human resources for art management professionals of Performing Arts, and to enhance their working environment.
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Explatでは文化庁が2015年5月に発表した「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)」において計画されている、将来的な地域版アーツカウンシルの創設に向けた体制構築に注目し、2016年1月、7月と継続してシンポジウムを実施してきました。
7月に実施された「地域版アーツカウンシルに求められる役割2」では、地域版アーツカウンシルの創設や運営をバックアップする役割となる、文化庁の「平成28年度 文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業(地域における文化施策推進体制の構築促進事業)」に採択された各自治体の担当者を招き、それぞれの取り組みや今後の計画を伺う機会を設けました。
その概要を以下に公開します。
【登壇者(敬称略)】
饗場厚 文化庁 文化部芸術文化課 文化活動振興室 室長補佐
塚原進 新潟市文化スポーツ部 文化創造推進課 課長
中野浩一郎 横浜市文化観光局 文化芸術創造都市推進部 創造都市推進課 担当課長
三浦宏樹 大分県芸術文化スポーツ振興財団 参与 兼 アーツラボラトリー室 室長
岩瀬智久 静岡県文化・観光部 文化政策課 専門監
佐藤千晴 大阪府市文化振興会議 アーツカウンシル部会(大阪アーツカウンシル)統括責任者
【シンポジウム モデレーター(敬称略)】
太下義之 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター 主席研究員/センター長
シンポジウム「地域版アーツカウンシルに求められる役割2」(2016年7月15日開催)
主催:特定非営利活動法人Explat
共催:あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】
「平成28年度文化芸術振興費補助金」のうち、グローカル事業と呼んでいる「文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業」という枠組みがあり、その中に、「地域における文化施策推進体制の構築促進事業」を新設した。
文化庁が発表した「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)」を踏まえ、新たに地域における文化施策推進体制の構築促進事業、通称、地域版アーツカウンシルという形で事業を展開していく。
平成28年度は年明けの1月から約3週間弱の期間で、13件の応募があった。
審査の上、うち5件の事業が採択されており、いわゆる地域版アーツカウンシルの優良事例になることを期待している。採択額の上限を2,000万にしているが、3年間の継続採択で事業が展開していくに従って、申請金額はこれを越えることも予想している。
採択にあたり注目したのは以下の点。
・企画立案能力を向上、もしくは機能を強化していくこと。事業の主旨にきちんと沿っているかどうか。グローカル事業の目的とは、文化芸術を中心とした地域活性化。芸術文化の振興も目的だが、そればかりではなく、文化芸術を使って、地域の課題解決が図れることを狙いとしている。
・2020年の東京オリンピック・パラリンピック後のレガシーにつながっていくことを見据えた計画になっているか。補助が終わった後の体制維持のあり方について、きちんと計画されているのかどうかもポイントになった。
・単に事業を展開していくだけでなく、専門的な人材を中心にして、事業が企画立案されるのか。行政職は2年なり3年で異動が行われてしまうので、専門的なノウハウが蓄積されにくい。このため専門的な人材が配置されているかどうかがポイントになる。どんな人を配置するのかが不明確で、事業全体をどう取りまとめていくのかわからないものはマイナスの評価になっている。
・他の地方公共団体と連携がとれているかどうか。特に市町村において、都道府県と連携しているかどうか。都道府県もしくは政令市が申請主体という条件づけをしているが、都道府県が申請するときも市町村と連携した事業を計画してほしい。
・民間と行政、外郭団体の連携が期待できそうか。
・計画に対して、経費が妥当であるか。極端に金額が高い場合は評価が低くなり、また他の地方公共団体のモデルになるような取り組みが採択される傾向にある。
・長期的なロードマップが検討されているか。直近の事業計画については具体性があり、適切な内容で検討され、継続的な効果が期待できることが評価のポイントになっている。
・申請自治体による議論が十分になされないまま申請されている、あるいは対象とする分野が限定的、特定の分野に絞ったものであって、広がりが感じられないものはマイナスの評価になっている。
今年度5事業を新規で始めたが、平成29年度はこれに加え、新規で5事業を増やしたい。あくまでも計画だが、オリンピックまでの期限を区切って事業を実施し、最多で15事業が年間実施されていくという計算で考えている。年内には政府予算案が示される見込み。3年間の継続採択という形をとっているが、必ずしも3年を約束しているわけではないので、毎年審査を経た上での採択となる。
事業計画の傾向として、他の地方公共団体と連携が取れているかということをポイントにしているので、同じ県内から複数の申請が出てくることのないよう、事前に調整の上、共同で申請をするなどの工夫をして欲しい。
増額要求する予定だが、国全体の財政状態も厳しいこともあり、常に動向をチェックしておいて欲しい。
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平成の大合併で15の市町村が一気に合併した同市では、市民共通のアイデンティティを見い出し、一体感の醸成に向けて芸術祭を実施するほか、地域の宝物である「食」「踊り」「マンガ・アニメ」「音楽」などの振興に取り組んでいる。政令指定都市になってから10年ほどの間に積極的な事業展開をしてきたが、一方で課題もある。一つは人材不足。業務が高度化しているが文化芸術に関わる専門人材が少なく、また3年ぐらいで定期的な人事異動があるためにノウハウや人的なネットワークが散逸してしまう。特定の人がいないと成り立たない仕事が出て負担が集中してしまう。このため、ノウハウやネットワークを外部にも蓄積していく必要があった。
もう一つは、外への発信力が弱いこと。また、観光、福祉、教育など、他ジャンルに広げていくといった、やるべきことに手が回らず、マネジメントサイクルも回していけない。地に足のついた体制づくりのために、アーツカウンシルを立ち上げることになった。
今回はオリンピック文化プログラムや、その後の国際発信・国際交流を見すえた、「新潟市文化創造都市ビジョン」の改訂と、その着実な推進のための体制整備についての、5年間にわたる構想を申請。
推進体制は、行政サイドに市長をトップに庁内の関係部長で組織される文化創造推進本部と、計画の進行管理や評価機能を担う外部の有識者会議を設置し、その上で庁外に専門集団としてアーツカウンシル新潟を設置し、散逸してはいけないノウハウや、人的ネットワークが蓄積されていくイメージを目指す。アーツカウンシルと、行政が車の両輪となって、新潟市の創造都市政策を進めながらマネジメントサイクルを回していくことを目指している。
アーツカウンシル新潟は、りゅーとぴあの指定管理等を担っている新潟市芸術文化振興財団に設置される。財団では既に舞台芸術に関する専門人材は充実しているが、他ジャンルを担うこともできる、オールジャンルの文化振興のための組織を目指す。
設置目的は、オリンピックの文化プログラムを全市で取り組み、市民の文化芸術活動の活性化をはかり、国際観光の振興や経済活動の進展につなげること。またオリンピックが終わった後も、成果を継続し、持続的な文化創造都市の推進体制を構築すること。機能は文化芸術活動の支援、調査研究、情報発信、企画・立案の4つ。初年度はプログラムディレクター(PD)1人、プログラムオフォサー(PO)2人、アシスタント的な役割の臨時職員1人を公募。来年度以降はPOを2人から5人に増やしていき、合計で7人体制とする予定。
3年の補助期間が終わった後に財源をどう確保していくか、どのように評価をしていくか、優秀な人材の確保育成等が検討課題となっている。
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感動と新たな価値を生み出す文化芸術の創造性をまちづくりに生かしていく「創造都市横浜」を施策として掲げ、関内・関外地区の創造界隈拠点の形成、さらに映像文化都市の推進、横浜トリエンナーレ、創造的ビジネスコーディネート事業などを展開している。
2007年よりアーツコミッション・ヨコハマを開設し、現在は横浜芸術文化振興財団が運営を担っている。アーティスト、クリエイターの相談、コーディネート事業、創作活動に対する助成、事務所開設の助成、情報発信、プロモーションなどが主事業となっている。課題としては、アーティストやクリエイターのニーズに沿った対応や専門家との連携、アーティストに向けたビジネス支援などがあげられる。
横浜版アーツカウンシルは、これまで横浜市が10年以上進めてきた創造都市施策により集積したアーティスト・クリエーターが次のステージに進めるようサポートする。アーツコミッション・ヨコハマがこれまで実施してきた相談、助成、プロモーションと、市が直接行ってきたマッチング、コーディネート、サポート事業の情報を一元化して連動することと、加えて、プラットフォームミーティングの設置・開催により、出会い交流機能を持たせることを目指す。
プラットフォームミーティングのコアメンバーは市と財団、横浜のクリエイター、企業、大学研究機関などを考えており、コーディネーターも活用しながら、シナジーを生み出していく。
また助成制度を刷新し、クリエイティブ・フェローシップ・インクルージョン助成制度などをスタートする。
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大分はこれまで製造業がまちづくりをリードしてきた産業県だったが、魅力的なまちづくりにより若い人材を集める構造の転換を図り、コンパクトシティ、クリエイティブシティ(芸術文化による都市の再生)に注目している。
大分市では大分市美術館、iichiko総合文化センター、複合文化施設のホルトホール大分に続き、2015年には県立美術館OPAMが開館。市内に芸術文化ゾーンが作られたほか、駅ビルや水族館にも積極的にアートが取り込まれている。また県内では、大分市の「おおいたトイレンナーレ」、アートNPOのBEPPU PROJECTが中心になって進める別府の「混浴温泉世界」、別府アルゲリッチ音楽祭、国東半島芸術祭などの芸術祭が開催されており、さらに竹田市では「TAKETA ART CULTURE」というアートのまち歩きの取り組みを機に工芸作家らの移住が相次いでいる。文化芸術が、地域/観光/福祉/教育/環境と掛け合わされることにより地域ブランドが創出され、UターンやIターン、定住にも良い影響を与えることが期待されている。
このような環境下で大分県は新長期総合計画として「創造県おおいた」の実現を立案。文化の分野だけでなく、産業振興などに文化を活用していくことを目指している。また創造都市政策を掲げる大分市、別府市、竹田市のほか、由布市、豊後高田市、国東市なども文化を活かしたまちづくりを掲げており、大分都市広域圏全般を通じ、創造都市圏が注目されている。
大分版の地域版アーツカウンシルであるアーツ・コンソーシアム大分は、大分県と、大分県芸術文化スポーツ振興財団、県立大分芸術短期大学の3者で協定を結んで誕生した。主な領域として調査研究、様々なプロジェクトの説明責任を果たすための評価手法の調査と試験的な検証、人材育成などを担う想定で、今後、大分版のアーツカウンシルにつなげていくことを狙う。
大分では2018年の国民文化祭、2019年ラグビーワールドカップ大分開催、2020年オリンピック・パラリンピックと続くため、文化プログラムが継続的に計画される。これらに対してサポートを行っていくのがアーツ・コンソーシアム大分の役割となる。
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SPAC(静岡県舞台芸術センター)なども擁する静岡県は「ふじのくに文化振興基本計画」を策定。これに基づく2014〜2017年の長期計画では、静岡県版のアーツカウンシルを検討することをタイムテーブルに含めている。
「専門的な人材の不在が原因して、効果的な事業費の使い方ができない」「財団も、大規模な文化施設の指定管理者としての業務等業務が集中し、肝心な文化振興機能が極めて限定的になる」「経験が蓄積、継承されず、経験や調査に基づいた政策展開がしにくい」といった文化政策の課題を改善するためには、アートのクオリティは担保した上で、地域的社会的課題を視野に入れた人材が必要になってくる。
そこで静岡県ではいち早くオリンピックの文化プログラムに注目していたこともあり、オリンピック文化プログラム推進委員会を立ち上げ、そこが実質的なアーツカウンシル的機能を担っていく形をとることとなった。静岡県の文化プログラムのテーマは「地域とアートが共鳴する」。潜在的な資源を発掘する、他者の違いに価値を見出す文化を育む、創造性を基盤とする一人ひとりの生き方の多様性・可能性を示す、文化芸術を生かして地域的社会的課題への対応をするという4つの目的を持ち、「多様性」、「多極性」、「持続性」をキーワードとしている。あくまで今はオリンピックの文化プログラムを推進していく組織だが、2020年以降、アーツカウンシル的な機能をもった組織を維持、発展させていきたいと考えている。
委員会の機能は、プログラムの担い手への様々なサポートをしていくこと。プログラムを選定し、一部のものには負担金を出して支援をする。またいずれは公募をかけて、プログラムの認定も行う。メンバーは、文化政策・アートマネジメント・観光の専門家約10人で構成。そのもとにプログラムコーディネーターを配置。今年度は3人に委嘱しており、来年度は増員予定。今年度の条件は日額3万円×80日だが、決して安定したものとはいえない。プログラムコーディネーターの役割は、文化プログラムの担い手あるいは参画したいというグループ・団体に対する助言、それに伴う情報の集積、調査、調整、人材の紹介など。
今後は、文化プログラムを通してアーツカウンシル的な機能の必要性・効果を具体的に示していけるのかが試される。
第一の課題は、専門的な人材をいかに確保するのか。募集に対して16人の応募があり、そのうちの3分の2は県外から。来年度以降、POに相当する専門スタッフを担える若手の人材を育てていくことが必要になる。第二の課題は、助成機能を担う時の財源について。現在は県の文化財団が年間700〜800万円、一箇所の上限30万程度のものを持っているのみ。クオリティの高い作品制作や、他分野と協働で地域や社会の課題に対応していく活動には、まったく足りない。当然右肩上がりで財源が増えることはあり得ない中、どうやって確保していくかが課題となる。第三に、中間支援的な機能について。やりたいという思いがある活動を、どのように社会的な意義を持たせたプログラムとして事業化していくかを支援していく必要がある。最後に、組織のあり方について。現在は任意団体だが、静岡県が職員を置いて負担金を出しているので、県の直営に近い。ただ今後、アーツカウンシル的な機能をふくらませていく時は処遇の問題が出てくるため、きちんとした組織化が求められる。
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大阪アーツカウンシルは2013年、大阪府と大阪市の共同設置によりスタートした。
その背景には三つの流れがある。一つ目は、橋下徹・元大阪府知事による財政改革。文化行政の縮小・民営化を実施し、そこへの厳しい批判が起こった。そのためその後、同氏が大阪市長に就任した際には、文化の仕事には専門家の判断が必要という色を強く打ち出した。二つ目は、市民の側からの動きである。長期計画の途中で中断となった大阪市の公設民営事業「新世界アーツパーク事業」でアートNPOとして活動していた関係者らが中心になり、文化施策を継続的に実施するための仕組みとして、イギリスのアーツカウンシル等に注目。「大阪でアーツカウンシルをつくる会」を結成し、勉強会を続けてきた。大阪アーツカウンシルを設置するときは、同会のメンバーが、その骨格をつくる役割も果たしている。三つ目は文化行政の研究者達から、担当者や首長が代わるたびに方針がぶれることの無いように、文化振興条例に基づく計画とそれを進める推進団体が必要という声が上がったことである。
これらの流れが重なって大阪アーツカウンシルが誕生したが、大阪には文化系の外郭財団が無かったため、大阪府市文化振興会議の専門部会という、審議会の位置付けとなった。メンバーは、会合ごとに集まる審議会委員の5人。
活動は、審査・評価が中心。審査は、大阪府・大阪市の公募型助成金を担当している。審査はアーツカウンシル委員と、審査に特化して委嘱するアーツカウンシル専門委員が担当している。
また大阪府や大阪市の文化行政の評価を行っている。事業を見てレクチャーを聞き、その評価を一覧表にして作成文化振興会議のホームページに発表する。この評価や提言をもとに、府市はPDCAサイクルを回している。
ミッションとしては調査・企画も掲げられているが、審議会のため専任のスタッフがおらず、オフィスもないため、事業を自ら行うことができないことが制約となっている。
そこで府市による実行委員会という形式で、大阪の文化状況の課題解決につながる事業提案を公募する芸術文化魅力育成プロジェクト(2015年度は「中之島のっと(knot)」の愛称)を提案し、実施された。ただし、アーツカウンシルはアドバイザーという中途半端な立場の関りとなることや、事業者をプロポーザルで募集するため誰がどのような提案を出すのかが全く分からないことなど、課題も多い。
審議会形式最大のネックは人的リソースの確保。会合報酬(1日9800円)しか設定されておらず、レクチャー、情報発信などにスタッフが欲しくてもその人件費が出せない。文化庁の補助金が人件費を認めているのに活用できないのが現状だ。期待される仕事と現実にできる仕事のギャップが大きいという問題に直面している。
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