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設立に至る経緯 - Explat設立イベント アーカイブ

設立に至る経緯
岸正人(あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】支配人、Explat発起人)


 Explat設立イベントに遡ること約1年前、文化庁の文化審議会文化政策部会では、「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次)」の策定に向けて審議が進められ、多くの委員から2020東京大会のレガシーのひとつとしてアートマネジメント専門職の「育成」や「雇用」の必要性が繰り返し挙げられていました。劇場、音楽堂等連絡協議会の事務局として傍聴を続けながら、盛り込まれる方針やその施策を期待して待っているだけでよいのか、自分達でも何かできることがあるのでは、との想いを抱かずにはいられませんでした。
 2001年に「文化芸術振興基本法」、2012年に「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)」が施行され、前後して「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第1〜3次)」が策定され、それらに基づき国の支援策も整備されるなど、この数十年で舞台芸術を取り巻く社会的な環境は大きく前進してきました。
 一方で、芸術と社会をつなぐアートマネジメントの必要性が唱えられ、それを掲げる大学の学部や講座が100を超え、毎年、多数の卒業生を生み出しています。

 では、現在、舞台芸術に関わるアートマネジメント職が専門職能として確立されてきているかと言うと全くもってそうは思われません。公立文化施設の雇用環境を取り上げるなら、指定管理者制度の導入以後、確実に劣化が進行してきています。職員募集を担う地域創造の「人材バンク」やネットTAMなどのwebサイトを見ると、大半が年度ごとの「有期雇用」で占められています。また、自治体との協定により、人件費枠が固定され欠員補充が中心となることから、翌年度の就労意向が判明する秋以降に募集開始です。併せて、改正労働契約法で有期雇用が5年を超えると無期への転換が可能になりましたが、むしろ、更新継続について5年未満での「雇い止め」も懸念されます。安定していそうな公立文化施設にしてこの状態で、フリーランス等でアートマネジメントに関わる層は更に不安定な雇用環境におかれています。
 個人的には、ここ20年ほど、世田谷、山口、神奈川、豊島と複数の公立文化施設に関わり、雇用形態は異なりますが切れ目なく仕事をいただいてきました。ただ、現在の雇用形態は、劇場の支配人ながら、やはり年度更新の有期雇用です。

 大学で専門的に学んでも募集が4年生の秋以降で、5年未満の有期雇用、給与水準も高くないとなると、この業界に優秀な人材が入ってこなくなることも懸念されます。文化政策部会時に部会長の熊倉純子芸大教授から「人材は育成されてきているが、業界を希望しない。雇用環境が悪すぎるから」との発言もありました。
 立場的には雇用者側であるフェスティバル/トーキョー(F/T)を運営するアートネットワークジャパン(ANJ)の蓮池奈緒子さんとも業界全体の課題として問題意識を共有し、具体的な動きを起こせないか話し合ってきました。

 オリンピックに向けて、全国規模で文化プログラムの展開が検討されています。今後、一時的にアートマネジメント職の仕事は増えることが想定されますが、人材の使い捨てが起こる可能性も懸念されます。

 この機を捉えて、業界の中からも声をあげて、そして自分達で変化を起こしていく必要があるのではないのか。その想いを劇場や芸術団体、政府関係組織、大学、企業、助成組織など立場の異なる方々に投げかけるなかで、賛同や共感をいただくことができました。そんな中から自らの課題と認識する若いメンバーも集まり、セゾン文化財団等の助成金を申請し、採択をいただくこともできました。また、手分けしてお願いに回り、各専門領域の方々に理事等に就任いただいて、NPO法人化にこぎつけることができて、設立イベントを開催するまでに至りました。

 第4次方針は、設立イベントに先立つ5月に閣議決定され、「育成」や「雇用」について、『重点戦略2:文化芸術を創造し,支える人材の充実(略)』の重点的に取り組むべき施策の内のひとつとして、「雇用の増大を図ることも念頭に置き,文化芸術活動や施設の運営を支える専門人材の育成・活用を充実する。」と記されました。これと 第3次方針の同「〜専門的人材の育成・活用に関する支援を充実する。」との違いは、霞が関文学的にはあるのかもしれませんが、今ひとつ何が変わったのか分かり難く思えます。
 やはり、自分達で取り組みを進めるしかないとの想いを新たにしています。

 

岸正人(あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】支配人、Explat発起人)