An intermediate support organization to develop human resources for art management professionals of Performing Arts, and to enhance their working environment.
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世界最大級のパイプオルガンを有するクラシック専用の大ホール(コンサートホール)、演劇・舞踊等の公演を行う中ホール(プレイハウス)と2つの小ホール(シアターイーストとシアターウエスト)を備える東京芸術劇場の舞台技術(舞台管理、照明、音響)の職員を募集します。高校演劇から海外カンパニーの作品まで多様な作品の受け入れながら、多彩な主催事業も行っている東京芸術劇場で、東京の文化の創造発信を技術面でサポートする仕事です。今回の募集にあたり、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場の舞台管理担当課長 白神久吉さんにお話を伺いました。
A12012年にリニューアルオープンしたのですが、そのリニューアルに先だって、東京芸術劇場を東京の文化芸術の発信拠点として位置づけようという東京都の意向がありました。まず2009年に野田秀樹さんを劇場の芸術監督としてお呼びし、それまでの東京芸術劇場が貸館事業中心だったところを、自主事業を増やし、文化芸術の発信のための拠点に変えていきました。専門人材としても、事業として副館長の高萩宏、そして技術として私が中心となりリニューアル後の創造発信拠点としての劇場の形を整えていきました。1990年に開館し20年が経過していたので、施設の老朽化ということもありましたが、単にそのための改修ではなく、創造発信に相応しい拠点となるよう、コンサートホールはいい音が響くよう、プレイハウスは演劇・舞踊専門のホールとして、2つの小ホールは作業効率の良い、使いやすいホールになるようにということでリニューアルしました。
A2技術の専門人材は私も含めて4人(舞台・音響・照明)でリニューアル後の出発をしました。東京芸術劇場ではフェスティバル/トーキョーなどの作品の受け入れも行っていますが、創造発信の拠点として、そういった作品を受け入れる際の技術の調整、図面の調整や、ホールの特性を生かした公演になるようにサポートしたり、「自作自演」などの主催事業のいくつかではプランナーとしての仕事もします。そうなると、それまでの4人では足りず、昨年、舞台、照明・映像、音響の3人が増えました。そして今回の募集であと3人が入ってくれば、なんとかこれで東京芸術劇場の技術グループの体制ができてくるかな、と思います。
リニューアルオープン後は、創造発信、国際交流、人材育成、にぎわい創出の4つを目標にしています。創造発信、国際交流はこれまでも行ってきましたが、この人材育成がこれから課題になってくるだろうと考えています。我々も技術の専門人材を育てていかなくてはいけないと考えています。今までは経験者、ある程度の中堅どころでチームを動かしていくという形でしたが、今回は少し若手でもいいかなと思っています。ただ、高校演劇や大学演劇なども受け入れていますし、舞台技術セミナーやバックステージツアーなども企画していますので、そういう場面では技術サポートを行うことが必要ですし、わかりやすく技術を教えられることも必要になってきます。東京芸術劇場では制作者の育成でアーツアカデミーという事業を行っていますが、制作者に対しての技術のレクチャーというのも必要だろうと思っています。
A3もちろん、ある程度現場で経験した方でないと見えない部分もあると思いますので、ホールなどやいろんな場で仕事の経験があれば理解しやすいと思います。現在の技術グループの7人体制で、ある程度は揃ったので、次は若手を育成しながら、後を引き継いでもらう、そういう時期に入ったのかなと思います。どうしても、多くの技術の現場では「即実践」が求められ、できないと「足手まとい」ということがありがちです。今回入ってくる方は、ある程度の経験と意欲さえあれば、最初の1年は書類の書き方なども含めてOJTで一緒にやって、2年目からは自立してもらえるようにと思っています。やはり公立の施設ですので、書類を作成したりという事務的な仕事もありますから、そこはちゃんと教えていきます。
劇場で一番大切なのは安全・安心、そして使ってもらえる劇場になっていくことだと思います。この「安全」の意識というのは経験に基づいていると思います。それを一緒に学んでいかないと、ある人に聞くと「ここまではいいですよ」と言われたのに、別の人に聞くと「よく分からないから、それはやめてください」というばらつきが起きてしまいます。それを避けるためにも、そういったことを経験していける場所で、仕事をしながら覚えていくということが大切だと思います。
A4募集要項では、「舞台技術(舞台管理、照明、音響)」と書いていますが、舞台管理じゃなくて「舞台」でいいと私は思っているんですけど・・・いわゆる舞台監督、技術監督といった業務です。音響には映像関係の設備もありますので、音響・映像という感じですね。照明にも映像は関係してくるので、照明も照明・映像という感じです。音響、照明の方で映像ができる方がいれば、あるいはほかにも得意分野がある方はぜひそれをアピールしてほしいなと思います。それぞれ専門分野はありますが、技術グループは施設の全体管理もありますので、全員で情報共有しながら全体で動いています。専門は音響でも、コンサートホールのステージマネージャーを任せたりということもあります。普通は音響なら音響、照明なら照明だけですからね。そういったことを通して自分の世界が拡がっていくことが重要だと思っています。高校演劇もあれば、小劇場演劇、そして世界で活躍する芸術家の作品まで受け入れています。それに日本でも指折りのコンサートホールもあります。たとえば「音響」といっても、演劇・舞踊の音響とコンサートの音響はまったく違いますからね。照明もしかりです。
そういった意味では、経験を積んできた中堅どころの方であっても、ある程度気持ちをゼロにしておく必要があるというか、自分の能力を基にして判断できることと、自分の知識や経験だけでは判断できないこともあります。その場合は人に聞けばいいんです。どんな公演も、劇場全体で受け入れているので、一人で悩む必要はなく、相談しながらやっていけばいいんです。
A5そうなんです。私自身英語はできないのですが、身振り手振りで何とかやってます(笑)。通訳さんはもちろんいますが、直接技術者同士がコミュニケーションを取ったほうが早い場合もあります。通訳さんも技術の専門用語が全てわかっているわけではないので、そんなときは直接やることも多いですね。国は違えど同じ技術者なので「どういうことをしたいか」さえこちらで理解できれば、言葉が分からなくても、なんとかやれてきましたね。
特に海外のカンパニーの受け入れということでは、先方から言われたものを100%そのままただやるというのではなく、現地ではどのようにやってきたかを理解したうえで、東京でやる場合にどのようにするのがよいのかを考えていくことが重要です。テクニカルライダーに書いてある機材が日本には無い、電圧が違う、日本ではこっちの代替品のほうが良く使われている、そういったことがいろいろありますから。そういうことでは、コミュニケーション・スキルも大事ですね。日本人同士だけではなく海外、そして最近は特にアジアとの交流も盛んです。これからの技術者には英語の能力も求められてくると思います。
A6昔は劇場の管理は「小屋付き」と呼ばれていて、劇場の管理人のイメージがありましたが、やはりここ最近は劇場のあり方も変わってきて、技術者はサービス業としての技術支援ができないといけません。サポートができるということは、現場を経験し、演出家やデザイナーが創造していること、求めていることを汲んでいけるということです。昔の小屋付きのように、劇場の中のことには関知せず、鍵の受け渡しだけをする存在ではなくなっています。また劇場を使用する側も、技術的な相談やサポートを求める時代になってきました。技術スタッフが使用者と一緒になって考え、仕事をしていくことで、劇場が創造の場になっていくのだろうと思います。これからの公立施設の技術者は、ただ技術ができればいいというのではなく、気配り、目配りができる人が求められてくるのだと思います。これはもちろん技術者だけに関わらず、仕事をする上でどこでもそうだとは思いますが。
特に近年は、劇場法(劇場・音楽堂等の活性化に関する法)ができたということもあり、そこには専門人材を配置するということが書かれていますから、専門人材が少しずつ増えてきて、劇場が少しずつ活性化していると思います。地方の文化会館などに専門人材が入ることで、ものが作れる発想が生まれてくる、その発想が生まれてくると、そこで働いているいろいろな人たちがアイデアを出し合って面白くなっていくのではないかと思います。専門家だからこそ発想できることがあると思います。そして、他の劇場から顔が見えるということも重要で、劇場の顔になっている人がいるところは、人と人が繋がって連携していくことができるので、さらに活性化していきます。ここで働く技術のスタッフたちも、そういう顔が見える技術者になってほしいと思います。
A7ある程度現場を経験して、オペレーターやプランナーの経験があれば、利用者の気持ちを汲むことができるので、それが気配り、目配りにつながっていくのではと思います。また、自分自身が創造したい気持ちを持っていることも重要だと思います。気配り、目配りばっかりではうまくいかない。自分がやりたいことはこれだ、という気持ちがないとやはり技術者としてもスキルアップしていきません。気配り、目配りしつつもわがままであるということが大切ですね。多くの技術者って実はそうなんです。
もちろん、そのわがままを実現するには、プレゼンテーション能力がないと周りを説得できないし、意思を通すために人に説得する方法を考えていると、逆に人がやりたいことも理解できるようになってきます。そうなってくると、高校演劇などの現場などでも、相談を受けたものに対して「じゃあ、こうしたらいいんじゃない?」とサジェスチョンできるようになってきます。受け入れた公演のプランを見たときに「こういうことをやろうとしているんだ」ということが見抜けるようになってくると、次のステップがまた開けてくると思います。