An intermediate support organization to develop human resources for art management professionals of Performing Arts, and to enhance their working environment.
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「モノをつくる 芸術の創造」、「人をつくる 人材の育成」、「まちをつくる 賑わいの創出」の「3つのつくる」をテーマとする創造型劇場KAAT神奈川芸術劇場の舞台技術課・照明担当の契約職員を募集します。劇場の管理業務・保守業務だけではなく、自主製作公演にデザイン・プログラム・オペレートなどで技術的参画も行うお仕事です。今回の募集にあたり、KAAT神奈川芸術劇場 舞台技術課 課長であり技術監督である堀内真人さんにお話を伺いました。
A1 公益財団法人神奈川芸術文化財団が指定管理者として運営しているKAAT神奈川芸術劇場は、創作・発信型の劇場を作ろうという県の施策で構想され、劇場のしつらえも演出やデザインに沿って形が変わったり、稽古場がたくさんあったりと、作品を創る場所として設計されています。私は開館準備から関わっているのですが、そういう施設にふさわしい舞台技術スタッフとして、十全に管理運営する能力はもちろん必須なのですが、「作品を創る」側の視点を持っているスタッフが必要だと考え、多彩な方々に参画いただいてスタートしました。
今回は、開館以来一緒にやってきたメンバーの一人が、KAATで磨いたスキルを使って、さらに自分の活動の場を広げようと退職し欠員が生じたこともあるのですが、開館からしゃにむにやってきた5年を経て、新たに白井晃芸術監督が就任され、劇場の目指す方向も見えてきて、また世の中での認知も上がってきたところで、これからさらに10年、15年と続いていくために、自分たちが思いもよらないような人材や、違った力が入ってくる時期かなと考えての、公募です。
A2 同時代性を持った作品づくりとお答えすれば良いかと思います。KAATには、ホール、大スタジオ、中スタジオ、と三つの上演会場があります。ふたつのスタジオは、どちらかというと若手から中堅のクリエイターの方々に多く使っていただいており、実験的な同時代の作品を上演するのにいい場所だという評価をいただいています。若い劇団などでもKAATで作品を上演するのが夢です、という方などもいたりして、そういうのを聞くと嬉しく思います。
私自身は2003~4年に文化庁の新進芸術家海外研修制度でフランスへ行っているんです。その時に見たのは、劇場が街にとって必要なものであることをみんなが疑わず街の中に凛々しく存在しているという姿でした。そこでは賛否両論あるような作品も上演されていますが、「でも劇場ってそういう場所でしょ」とみんな思っています。劇場は単に作品を上演するだけではなく、創る場所としてどれだけ意味を持てるのかをずっと考えてきましたし、これからも考えて行きたいと思っています。
今の日本の劇場文化というのは、何か目当てがあっていらっしゃる方がほとんどだと思います。つまり○○さんが見たい、冒険活劇を見てスカッとしたい、ショーを見て高揚したい、そういった方々がほとんどで、それはそれで良いのですが、想像もつかないものに出会うために劇場に行きたい、知らない何かを見に行きたいというお客様が増えないと、似たようなものばかりになってしまうのではないかと思うんです。個人的には、そういうお客様が増やせるような、またそういう風に見ていただける作品をやっていくべきだと思っています。公共劇場には、多様な価値観がそこに存在しうることを担保する役割があると思います。
A3現在は全部で23名おり、チームとしては舞台機構、照明、音響、プロダクション・オフィスの4チームがあります。
まだ耳になじまないのが「プロダクション・オフィス」というチームだと思いますが、私たちは作品をここで創作していく際に「プロダクション・マネージャー」というポジションを必ず置くことにしています。作品を創る際には、様々なセクションがそれぞれのツールを持って作品を高めていこうとしますが、簡単に言えばその調整機能を担う役割です。そこには予算やスケジュール管理も含まれます。日本ではこれまで多くの場合、舞台監督と呼ばれる方々がこの仕事をやっていたと思いますが、舞台監督の仕事の一番大事なことは、演出家や俳優が稽古場で作ってきた作品を、作ってきた通りに始めて終わる、安全に、そしてクオリティを落とさず毎日繰り返すということ、これがコアな部分です。しかし公演の規模が大きくなったり複雑になったりしてくると、そのコアの周辺の領域をすべてカバーするのは難しいと思います。プロダクション・マネージメントと捉えている仕事は、もともとこれがないと幕が開かない仕事なので、プロダクション・マネージャーがいなくても、舞台監督、演出助手、制作など、いろいろなセクションの仕事の中に埋まっていたと思いますが、この切り分けを変えていくことに取り組んでいます。そういった作品に対してのプロダクション・マネージメント、それから舞台技術課のマネージメントを行うチームとしてプロダクション・オフィスがあります。
A4 自主事業はつねに2作品くらいは必ず動いており、小さな事業まで含めると相当な数になります。主催事業では、舞台技術課のメンバーが舞台監督をやったり、照明や音響のデザイナーで入ったりすることも少なくありません。もともとそういったことができる人たちが舞台技術課にいるということももちろんですが、この場所をよく知っているので、我々だからこそできることがあると思っています。
私は、劇場は質の高い上演をおこなうための場であると同時に、大きな工具箱みたいなものだと思っています。劇場にスタッフが付属しているのではなく、私たちが劇場を持っていると思え、とメンバーにもよく言っています。そのまま聞くと大きな誤解を生みますが、わかりやすく言い換えると、つまり人が使って始めてそこは劇場になるのだと、いうことで、そういう意識でやっていこう、と言っています。なので「小屋付き」という言葉は、KAATにおいてはNGワードです。
そして、当然のことながら、創作の仕事だけでなく、というか割合としては、それよりも大きな比重で、劇場を使っていただく方を受け入れる管理業務や、備品や施設の保守業務もあります。それらも、創作の仕事と同じ姿勢、同じ熱意で臨んでいかなければいけないのは、言うまでもありません。
A5 TPAM (国際舞台芸術ミーティング in 横浜) とは非常にいい関係を続けているというのも大きいですし、これからKAATも制作協力として関わっているフィリップ・デュクフレのミュージカル「わたしは真悟」という作品があります。この作品には私は技術監督で、ほかの舞台技術課のメンバーもスタッフとして関わっており、こういったこともよい機会だと思っています。
もちろん、スタッフに海外経験があったり英語が話せたりすると、ここでは使う機会も多々ありますが、今回の募集ではそこまでは求めてはいません。ただ、日本語だけでやっていると麻痺してくるなぁとも思うんですよね。みんなが同じ漫画や本を読み、同じテレビ番組を見て、日本中どこに行っても大体通じるので、クリエーションの最中になにか話し合ったり提案しようとしても、あまりを多くを語らずして、子供のころの原体験なども伝わったりしますよね。でもそれは幻想で、お互いに似たようなことを知っているので、それで分かった気になって、説明が済んだ気持ちになってしまっているんです。でもそれは全然違う仕事の仕方になると思うんですよね。私がフランスにいた際、小さな劇場でクリエーションをしていても、そのなかにはフランス人、ベルギー人、イタリア人、スペイン人がいるというのは普通でした。別に通訳がいるわけでもなく、みんながちょっとずつ違う言葉を話してやっていくわけです。そこでは、自分が何を考えているかを説明するのは大事業なんです。そういうことで訓練され、自分が何を考えてこういう発想をしているかをアウトプットできるようになるわけですが、日本だとそこがなかなか自覚できません。海外の方と仕事をすると、うまく通じないということを通じて、日頃の自分たちの仕事ぶりを振り返るチャンスだと思っています。KAATで一緒にやっていく方には、機材がどうとか、方法論がどうとか、それはもちろん大事なんですが、それよりもいろんな問題意識を共有してもらえるような方が来てくれるといいなぁと思います。
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今度、KAAT舞台技術講座2016「劇場に潜む危険を学ぶ」「舞台技術者の国際協働」も行いますが、TPAMに関わっている岡村滝尾さんとかprecogの中村茜さんとこういったことをよく話すんです。具体的に英語を話せる技術者が少ないということもありますが、それ以前に海外の方と一緒に仕事をするということの自覚が少ないと思います。残念ながら、単に面倒くさい仕事、言葉が通じない人との仕事だと思っている人も多いです。でもそれは逆で、日本でやるときはたまたま言葉が通じているということに過ぎないと思っています。制作者の集まりではセゾン文化財団が英語の講座をやったり、Next舞台制作塾EXでも西山葉子さんが海外公演の講座をやっていましたよね。そういった制作サイドからのアプローチはありますが、舞台技術者側からのこういった問題意識の提起ってなかったんです。
人材育成の話は公技連(公共劇場舞台技術者連絡会)など、いろいろなところで話は出ますが、どういう対象に向けての人材育成なのか、プロフェッショナル未満なのか、プロフェッショナルになりたての人たち向けなのか、それとも十分経験のある人たち向けなのか、今はどの対象に向けての講座も不足しています。プロフェッショナル未満にはインターンシップで実際の現場を体験しながら学べる機会を提供しています。KAATのインターンシップを経てプロとして舞台技術に関わる人も出始めていて、人が作る場所としては機能し始めているかな、と思っています。
プロフェッショナルになりたて、あるいは十分経験がある人も新しいことを覚えるチャンスや意識は必要だと思いますが、日本ではほとんどそういった機会がないんです。イギリスやフランスではシニア向けの3日間、4日間のプログラムがあったりします。KAATでは開館からずっと「舞台技術ワークショップ」という、どちらかといえばプロフェッショナル未満の方々に対して、舞台技術が表現にどうかかわるのかを体験してもらうワークショップをずっとやってきましたが、プロフェッショナル向けがないということで、そこに対してのアプローチを昨年から始めたのがこういった企画になります。
A7自分を見る目、自己批評性を持っている、つまり自分が知らないことを知っているということが重要だと思います。私も知らないことはたくさんあります。でも知らないことは知っている人に尋ねたり、助力を求めればいいんです。また、自分は伝えたつもりでも相手には伝わっていないかもしれないという恐れを持ったり、あるいは我々の仕事に安全という言葉は欠かせませんが、安全にやっているつもりでも、思いもよらない事故が起こる可能性も0ではないわけです。自分が知らない何かがあるかもしれないということに対しての想像力、恐れ、省みる力というのが、作品を創るという意味でも、大勢の人と強調して仕事をするという意味でも不可欠だと思います。スキルうんぬんよりも、そこが大事なことだと思います。
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