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Explatでは、文化庁が昨年5月に発表した「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)」において計画されている、将来的な地域版アーツカウンシルの創設に向けた体制構築に注目し、2016年1月にシンポジウム「地域版アーツカウンシルに求められる役割」を実施しました。その
第3部のシンポジウムの内容を以下に公開します。
【登壇者(敬称略)】
饗場厚(文化庁 文化部芸術文化課 文化活動振興室 室長補佐)
糸山裕子(特定非営利活動法人アートマネージメントセンター福岡 代表理事、「指輪ホテル」制作)
太下義之(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター長/主席研究員)
高萩宏(東京芸術劇場 副館長)
久野敦子(セゾン文化財団 プログラムディレクター)
【司会】
蓮池奈緒子(特定非営利活動法人Explat理事、特定非営利活動法人アートネットワーク・ジャパン理事長)
蓮池 Explatの理事を務めております蓮池奈緒子と申します。私自身NPOの経営をして15年、二足の草鞋でExplatの理事も務めております。今日は司会を務めます。限られたお時間ですが、緊急シンポジウムにご参加いただいた皆様にお礼を申し上げます。またこの申請の締め切りが今週金曜日ということで実際に申請なさろうとしている自治体の方もいらっしゃると思いますので、より具体的に、ここに来てよかったと、持ち帰るものがあるような会にしたいと思います。本日いらっしゃっている方々、専門人材と呼ばれる方々が大集結しておりますので、フロアの方々も聞くだけではなくぜひ参加という意識でお願いしたいと思います。
自己紹介を兼ねて、順番にお話しいただきたいと思います。太下さんと饗場さんはさきほどお話しいただきましたので、セゾン文化財団プログラム・ディレクターの久野さんからお願いします。久野さんがセゾンとして取り組まれてきたお仕事について、今話している地域版アーツカウンシルも直結する課題かと思いますので、そのあたりのことも踏まえてお話しいただければと思います。
久野 公益財団法人セゾン文化財団の久野と申します。セゾン文化財団は、1987年に実業家の堤清二という、西武百貨店や西友、ファミリーマート、無印良品、ロフトなど小売業を中心とした事業を創設展開したビジネスマンが作った個人財団です。堤は亡くなりましたが、実業家である他に、本人が詩人・小説家で辻井 喬という名前でたくさんの本を書いておりました。本人も芸術家であったということで、芸術に関する深い理解と愛情で個人の資金で財団を設立しました。現在、現代演劇や現代舞踊の活動に対する支援活動、芸術家に対する直接的な活動に対する支援や、アートNPOなどが新しい事業を始める際のスタートアップをお手伝いさせていただく創造環境に対する支援、国際プロジェクト、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムなどを実施しております。
今日お話を伺って非常に期待を持たせていただきました。最初伺ったときには、オリンピック・パラリンピックをきっかけとして作られたプログラムが、また増えたという風に思っていたのですが、それだけではないということが、本日のお話の中で、何度も強調されてました。オリンピックは一つの契機であって、その後にどんな変化が起こるかということを期待しているプログラムなのだということ、、助成の申請書にも何度も「オリンピック後に何が残るのか」という設問が強調されていいて、審査のポイントが、将来何を残すのか、という部分にあるということで、「将来を見据えての投資」のようなプログラムになっているなと思いました。そういう意味でも新しいと思いました。
もうひとつ専門人材を活用していこうということがはっきり明記してありますが、セゾンでも87年に設立した当初からプログラム・オフィサー制度を導入しています。助成に関する仕事というのはただの事務ではなく、またアーツマネジメントでもなく、芸術家でもなく、その間にあるような新しい仕事だという風に考えており、プログラム・オフィサーとしての特殊な資質、能力が求められると思います。その部分で、今後の文化芸術の発展において、アーツカウンシルを展開していくうえでの人材育成も非常に重要だと思います。セゾン文化財団でもいくつか実際に、ここで想定されているプログラムに類似した事業を行っていて、そのうえでの心配や懸念もありますので、のちほどディスカッションの中で質問させていただければと思いました。よろしくお願いいたします。
糸山 福岡から参りました、アートマネジメントセンター福岡の糸山裕子と申します。よろしくお願いいたします。今日の登壇者の中で地方からは私一人ということで、私も本当は客席側にいたい気分です。私は高校の頃から演劇をはじめ、東京に出た時期もあり、その後福岡に戻りまして平成6年に高校演劇時代からの知り合いと結婚し、会社を作り、その10年後にNPOを作りました。その時に、東京のみなさまはお忘れかと思いますが、福岡もオリンピックの国内候補地に立候補した時があったんです。その時がたまたま私が制作の仕事を再開した時と重なり、今となってはそれだったと分かりますが、当時は分からず、福岡に演劇フェスティバルを立ち上げなければはならない、だから演劇のことが分かる人を入れないといけないということで、ちょうど私どものNPOが立ち上がりそうだったところを、その演劇フェスティバルの事務局長をしてくれと頼まれ、事務局長になりました。10年間という区切りで、プレから始まり2015年度が9回だったので、いったん閉じようとしたんです、役割が終わったんじゃないかと。するとその時に東京のオリンピックの話が出てきた関係もあり、実は福岡も今後どうしていくかを悩んでいる真っ只中であると認識しています。
私個人としては、福岡演劇フェスティバルの事務局長の他に東京で活動している指輪ホテルという芸術団体があり、女性の作品をたくさん作って海外公演にも行ってます。セゾンにも支援してもらってますが、その制作もフェスティバルきっかけで知り合って始めました。アーティストは東京、制作者は福岡という事です。
また社会包摂というのが第4次基本方針に入っていますが、私共は5年前からホームレスの方々の就労自立支援のなかに演劇のワークショップを役立ててもらおうという事業をやっています。2年はトヨタ財団に支援してもらい、1年は自腹でやって、昨年は製薬会社のファイザーに支援してもらいました。綱渡り事業なんですが、2月に可児市で開催される世界劇場会議でも事例報告をさせていただきます。どちらかというと福岡の演劇フェスティバルは街づくりの一環の位置づけで福岡市内中心部でやっておりまして、福岡市とは10年来のお付き合いで、西日本鉄道などの企業も入って開催してきました。今年の春からは、福岡県立ももち文化センターという築40年の古い施設で、非常勤の館長を務めることになり、その関係で福岡県のほうにも行くことになったので、福岡市の方との付き合いもあり、今年からは福岡県の方との付き合いもあるということで、両方の様子が多少分かるようになりました。
先ほどの質問の方がおっしゃっていた「県と市の関係がどうにもダメなんです」というのはよく分かります。なかなか文化庁本体からは見えてこない地域の事情というものがあるのかなと認識しています。アーツカウンシルという仕組みについてですが、福岡演劇フェスティバルは九州全体を網羅してフェスティバルをしていたんです。公募枠も、最初から九州・山口地方で公募をしていたということがあり、私が行政の人に申しあげたのは、福岡は九州の長男坊ですね、と。であれば長男坊は長男坊なりの品格を持って、公募枠を福岡市の予算だからとはいわず、九州全体で公募をしてください、というのが条件でした。最終的には全国公募に変えました。そういった経緯もあり、行政の方々は他の自治体と組むということの困難さがあると思いますので、ここにはすごく高度なテクニックが必要だと思います。私の現時点での感想としましては、民間の制作者、専門家の方々と行政の実務の担当者と、もうひとつは政治の力、議員の認識を変えていただかない限りは、地方ではこのようなプログラムは進まないのではないのかなと思っております。実は市と県にこういうシンポジウムに参加しますと、平等に情報配信しましたが反応があったのは県のほうでした。「まだ事例が無いもの、形の見えないものに県としては予算を組むのが大変むずかしいです」と。まだ分からないけれども、何かやらなきゃいけないことはよく分かっている。が、首長クラスのトップの判断がないと予算がつかないんですとおっしゃっていました。福岡としても、九州全体なのか、半分なのか、半分だとして九州をどう分けるのか、広域的なブロックを作れる組織がないということ。それから見えないものに対するものに予算をつける力がどこにあるのか、というあたりがポイントではないかなと持って今日は参加しました。
高萩 東京芸術劇場の副館長をしております高萩と申します。文化行政的なものに関わっていて、よくバレエカンパニーの方から「ここまで助成金が上がって嬉しい」という声を聞くんです。でもどちらかというと、まだまだほかの国に比べたらかなり、少ないのですよ、といつも言っています。が、アーツカウンシルに関して言うと、よくここまで来たなと思います。アーツカウンシルがあったほうがいいなと10年、20年くらい前に言い始めたときに、日本でこういう言葉が…あっ、このなかでははっきりとアーツカウンシルって言っているわけではないんですよね。でも、このようなものを一応、国として作り始めたということはすごいなと思います。第3次基本方針の時に全国版アーツカウンシルの試行に私も関わっているんですが、これもなかなかうまく進まない部分があります。そんななか、地方版がこのように一応、俎上に乗るというのはすごいなと思います。東京都はアーツカウンシル東京がすでにあるので、応募できないのだろうなという気はしていました。今話を聞いていて、突っ込みどころはありますが、本当に5つか6つ、すごく成功した例を出して、それに続くというような形が取れればと思います。今日参加されている方は、アーツカウンシルを造っていこうという意欲がある方が多いと思います。成果をすぐに求められていますが、2、3年で成果を出して、これでいけば文化行政が上手く回るなという風になればと思います。
我々はアーティストではないので、アーティストをうまく使っていくことが大事かなと思います。オリンピックの文化プログラムには直接関係ないとさきほどおっしゃっていましたが、前回の東京オリンピックではデザイナーという言葉が確立したそうです。それまで意匠屋さんはいたけど、オリンピックの事業を通じて、デザイナーという職業の人が必要だということが認知され、それがちゃんと仕事として確立されたと。今回は「アーティスト」という仕事を確立させたいという話が、オリンピックの招聘が決まった直後に関係者と盛り上がったんですが、数年たって、そういうことはあまり盛り上がっていないようです。ですが、今回こういう形でアーツカウンシルというものがでてきて、ここを使って現場、地域が何らかの形で活性化する、芸術事業で地域がすごく良くなったねということになってくれればいいので、そういうことのためにこの制度が上手く使えるといいなと思います。文化庁の話を聞いていても、まだ直しようはあるなと思ったし、選ぶ委員の判断もあると思います。こうしたほうがよくなるよ、ということが出てきて、そういう意見を吸い上げてもらえれると、より使える仕組みになるともいます。ぜひ皆さんの意見も聞きたいし、よい意見がでれば、今日、饗場さんが持ち帰ってくれるといいなと思います。
蓮池 Explatとしても今回のこのシンポジウムを開催したのは、まさに高萩さんのおっしゃる通りで、ご担当の饗場さんがいらっしゃって、これから申請を控えているみなさんがいらっしゃる。私も含め、ここにいる私たちは心身ともに健康で幸せにこの業界にいる人間だと思いますが、若い世代がそんなふうになっていくためにこの地域版アーツカウンシルが果たす役割は非常に大きいと思います。いくつかフロアから質問を受けておりますので、饗場さんにお答えいただきながら、地域版アーツカウンシルに求められている役割、それから、今まさに申請しようと思っている、あるいは今後展開しようとしている地域にとっての課題となるようなこと、さきほど久野さんも少し懸念がおありというお話もありましたので、そのあたりで進めてまいります。
質問のほとんどは文化庁に対するものでございますが、さきほど高萩さんがお話になったように、都道府県および政令指定都市以外からの応募は不可でしょうか、ということですが…。
饗場 (首を振る)
蓮池 …不可ですね。それから全国を5つのブロックに分けているという話がありましたけれども、この広域連携というものに対して文化庁はどのようなイメージをお持ちになっているのでしょうか、という質問が来ています。
饗場 事の発端としましては、こういう機能を全国にひとつずつ、すべてにもれなくあり、それに対して文化庁が支援していきますというのが、みなさんが納得できる平等的なことなのかと思います。さりとて、すべてに対して文化庁が支援するのは、財政的、物理的な問題があり難しいです。しかし、こういった機能をやらないわけにはいかないと思っていますので、では我々として支援ができ、自治体としてどう取り組んでいくかを考えたときに、全国を5ブロックに分けて、そこに支援の起点という存在になってもらい、その起点を文化庁が支援するという考えです。なので、ほかの自治体ともうまく連携をしていただいて、自分の域内だけをカバーするのではなく、その周囲の地域とも連携し、ノウハウを共有するなどという形で展開していただき、そこでモデル的なケースを作って、ほかの自治体もそこを真似てみようかというような存在になってもらいたい。何度も言って恐縮ですが、すべてに対して支援するのは無理で、それは裏を返すとばらまいているだけだと思われてしまいますので、我々としては限られたところに支援をさせてもらいたいと考えております。
蓮池 ベーシックな質問をいただいています。来年度、5件が仮に採択されたとして、翌年度も新たに5件、その次もまた5件というイメージでよろしいのでしょうか。
饗場 我々の考えでは28年度に5件、次年度で新たに5件、30年度でまた新たに5件が新発で、すだれのような形でだんだん増えていくというイメージを持っています。これを年度ごとに見ていくと、平成32年がいわゆる2020年ですので、その年に新発となる事業が最後となります。28年から32年まで新しい事業が新発していくとなると、この間に支援できる事業は今の試算上でいくと25事業ということになります。毎年新発しますが、だんだん増えながらも、3年経つと抜けていく自治体がありますので、増えつつ抜けつつということで、毎年支援している事業はマックス15事業というイメージです。これはあくまでも机上の議論で、28年度の予算もこれから審議が始まるというところで、29年度に我々の描いている青写真が必ずしもそのままうまくいくのかどうかは、これからの交渉次第なんですが、今持っている計画としてはこのように考えています。
蓮池 文化芸術専門人材の雇用という言葉が文化庁の要項の中で出ていますが、太下さんのお立場で「文化芸術における専門人材」といったときに想起する仕事や人はどんなイメージでしょうか。
太下 一番わかりやすいのは、すでに立ち上がっているアーツカウンシル、東京それから大阪も立ち上がっていますが大阪は委員会の委員という立場なのでちょっと特別なんですが、あとは沖縄もありますね。特に東京と沖縄に関しては、ポジションもプログラム・ディレクター、プログラム・オフィサーという名称を使っています。事業の施作、助成事業の評価、それに関する調査、研究ということなので、そういったことをやっていくことになるのではないかなと思いますね。プログラム・ディレクターは全体統括する立場ですし、その下のプログラム・オフィサーはいくつかの分野に特化した専門の方ということかと思います。
蓮池 先ほど久野さんのお話にありましたとおり、セゾン文化財団は80年代後半からプログラム・ディレクター、オフィサーを置かれて活動されています。質問のなかにも、アーツカウンシルの運営のノウハウの蓄積にはかなりの時間が必要なのではないかという懸念も書かれています。久野さんから、今回の募集に引き付けて、なにか問題提起があれば伺いたいと思いますが、どうでしょうか。
久野 文化芸術の世界なかで、アーツマネジメントやワークショップなど、この業界では常に新しい言葉が生まれて、浸透していると思いますが、プログラム・ディレクター、プログラム・オフィサー、アーツカウンシルという言葉もここ数年で誕生した言葉で、まだまだモデルケースというものはないのかな、と思います。87年から、セゾン文化財団は、実はトヨタ財団から勉強させてもらって、このプログラム・オフィサー制というものを始めました。手探りしながら独自の方法で仕事の体系を作ってきたので、最近、急にプログラム・ディレクター、プログラム・オフィサーという仕事が脚光を浴びてドキドキしている感じです。
今お話があったように、到達したい目的について、その背景を調査し、何が問題であって、どんな風にそれを解決することができるのか、地域でやるのであれば、その地域にどんな課題があって、どのようにすればその地域の人たちが文化芸術の活動を実施していけるのかということを調査する、それを解決するための方策を考える。その解決するための方策のことをプログラムと言っています。そのプログラムがうまく実施された結果、想定したような目的を達成することができただろうか、私たちはよく「変化が起きたかどうかを見ると言っていますが、プログラムを実施した結果、どういう変化が起き、それがいい変化であれば成功と言えると思います。その一連のプロセスを検証することを評価といっています。目的に到達するのに障害となる問題が出れば次の年にそこを現場に戻して解決方法を考える。それを繰り返していくことと、プログラム・ディレクター、プログラム・オフィサーというのは自分で事業を起こすわけではない、イベンターではないというところも重要です。これがしばしばいろいろな行政が直接イベントを起こして、パッと打ち上げ花火として事業が終わってしまうケースが多いように見受けられます。地域にはアートNPOや専門的に文化芸術事業を扱う非営利の芸術団体などがたくさんあると思います。そこにはたくさんの専門的な経験の蓄積があって、専門家の方々もいらっしゃいます。その方々を活用、協力してプログラムを作っていくというところに地域版アーツカウンシルの成功のカギがあるような気がします。継続していくためには、すでにある人材や団体を活用していくことだと思います。
蓮池 久野さんから重要なお話があったと思います。調査をしてプログラムを作って、助成をして、また評価をするという仕組みが、あるようでないという実感がここ十数年あります。我々も助成を申請する立場でもありますが、セゾンに助成申請して、かなり丁寧にヒアリングしていただいて、かつ評価をしていただいているという実感があります。糸山さん、そのあたりの実感といいますか、さきほど地方の場合はなかなか東京の方々に見ていただくきっかけがないというようなお話もありましたが、いかがでしょうか。
糸山 福岡の場合は地元の小さな劇団ですと、福岡市の50万円の助成がありますから、それに応募しなさいと勧めますね。いい作品を作り出したときに応募を勧めます。うちはプロデュース公演もやっています。九州の中で、佐世保の作家でいい作品を書いて何度も劇作家協会の最終候補まで行く作家がいますが、彼女の劇団は女性4人です。彼女の作品をやるにはプロデュース公演でないとできないということがあって、芸術文化振興会の助成とかに応募して通って、アゴラ劇場で上演させていただきました。また福岡は釜山と距離が近く交流が盛んなので、お互いの都市での公演もやったりしています。助成はいただきますが、芸術文化振興会の方にはなかなか見に来ていただけず、アゴラでやった時には見に来ていただけたのでうれしかったです。今はみなさんお忙しい。市役所の方もお忙しい。県の方もお忙しいので、なかなか足を運んで見にきていただけません。が、やはり演劇の場合は実際のものを見ていただかないと評価しにくいというところがあります。日本演出家協会の和田さんとかにもずいぶん言いました。和田さんも振興会のプログラム・オフィサーになっていらしたので、振興会のほうでも検討されていて、同じような話がいろいろなところから出てきたから今このような状況があるのかなと認識はしています。九州内くらいだったら現場が見れますから、九州内にそういう方を配置するしくみができないかという話は、フェスティバルが始まった時からずっとしているような気がします。
蓮池 そうすると地域版アーツカウンシルが九州のどこかにできたとして、そこがそういった役割を担うようなことはイメージできますか?
糸山 イメージはできますね。あともうひとつは、九州内でも小さな自治体、例えば私が住んでるところは福岡市の隣の那珂川町という人口5万人の町なんですが、そういうところにも文化施設があったりします。人口5万人のような小さな市町村もたくさんありますので、全国津々浦々でそういう市町村に対するアドバイスの仕方もあると思います。組織を作るのであれば、この町だったらこういうことができるんじゃないか、とか今ある資産の組み合わせをアドバイスができる、こういう組み合わせがあると発展するんじゃないか、などという提案ができる仕組みがあれば広がってかないかなという気がします。実際、沖縄のアーツカウンシルはそういったことをやってらっしゃるというのは聞いたことがあります。そのような方が必要な気がします。
太下 沖縄については私も沖縄版アーツカウンシルのアドバイザーを務めています。さきほどプログラム・ディレクター、プログラム・オフィサーという話題が出てきましたが、彼らのメインの仕事は助成金を提供して評価をしていくという単純なことではなく、セゾン財団さん等をモデルにして、申請書を書く前の段階から文化団体やアーティストに寄り添って活動しています。たとえば、まずこういう助成金の枠がありますと周知していますが、それだけでは書き方のわからない団体もあるのです。特に沖縄の場合、伝統芸能の分野では、演者さんたち数人が団体の中核で、マネジメント人材もいないという組織が大半です。そして、活動は継続しないといけないのだけれど、このまま放っておくとペイできないので死活問題になるというケースが多いのです。プログラム・ディレクターやプログラム・オフィサーは、そういう団体の方とお話をしながら、アーツカウンシルの助成金をとることができれば、組織にマネジメント人材を入れることができますよとか、申請書はこういう風に書いてくださいね、とかそういうところまで面倒を見ているのです。そして、仮にその申請書が審査を通ったら、そのあとも団体の公演なりワークショップなりにも見に行っていますし、採択して終わりではなく、終わった後にさまざまなフォローをしているのです。
ちなみに沖縄の場合、なんでこういう組織が始まったかというと、背景に政治的な問題を抱えています。沖縄では、基地問題が十数年周期くらいでかなり政治問題化するわけですが、そうすると必ずと言っていいほど中央政府から巨額なお金が流れていくことになります。現状ですと一括交付金という名目でかなりの額が流れていいます。そういう性質のお金の一部として、沖縄のアーツカウンシルで扱っているお金が年間1億ありますが、これが基本的に助成金としての原資になるわけです。アーツカウンシルができる前までは、そういったお金が来ると、東京公演や海外公演で消費してしまっていたわけです。単に事業をして終わってしまっていたのでした。しかし、これだと次の時代に繋がらないわけです。この一括交付金というお金もいつまで続くか分からない。数年間は続くだろうけれど、一種のあぶく銭ですけれども、せっかくここにお金があるのだから、お金があるうちに未来に投資をしようということで、さきほど久野さんがおっしゃった未来への投資ということですけれど、沖縄の未来に投資しましょうということで、このアーツカウンシル事業が開始されました。ですので、単純な事業はだめですよと言っています。もし公演という見え方をしている場合でも、その公演に意味がないといけないのです。たとえば、沖縄には伝統芸能で組踊という国の無形文化財に指定されているものがありますが、なかなか振興がうまくいっていないという課題があります。民間の支援もあまりないのです。そこで、まずは伝統組踊保存会を法人化させましょうということになりました。そして、一般社団にして、マネジメント人材をきちんと雇用してください、そのうえで沖縄の経済界にもう少し認知してもらって支援をしてもらう対策を考えられないでしょうか、というやり取りをしていったわけです。次に、沖縄の経済人たちを招待した特別公演をやりましょうと、いうことになりました。これは見え方としては公演なのですけれども、単なる事業ではないのです。この公演の結果、何人かの経営者の方が組踊りに関心を持つという新しい関係性を生み出すことができたのです。こういったことはひとつの例ですが、沖縄の文化団体、アーティストが抱えている課題に対して、どういうことをやればいいのか、ということに取り組んでいるわけです。仮に見え方は事業っぽく見えるかもしれませんが、そうではなく、事業者が抱えている課題に寄り添って、そのための企画書を書かせ、実施のため並走していくということを沖縄ではやっています。自分も関わっているので表現が難しいですけど、これは割とうまくいっているのではないかと考えています。これからできる地域版アーツカウンシルもこんな形でやっていただけるとすごくいいと思います。
蓮池 ご質問のなかでも、アーツカウンシル相互での協力体制の構築は可能か、そのような計画はあるかという質問があります。たとえばさきほどの沖縄のアーツカウンシルの持っているノウハウを、地域版アーツカウンシルが仮に誕生した際に、協力体制というのは組めるものでしょうか。
高萩 アーツカウンシルという組織はちょっと難しいと思うんですよね。助成金、つまりお金と関わります。しかもお金を配るといったときに、ほかの補助金事業となんとなく似ているように思えるんですが、性格が違うんですね。これは結構大事なことです。農業とか、商業とかへの補助金と芸術助成というのは似てるけど、かなり違うと僕は思っています。芸術助成にかかわる人たちというのが、たぶん移動しなきゃいけないというところです。全国版のアーツカウンシルと地域版アーツカウンシルが協働しながらゆるやかに人材が動いて、キャリアパスを作っていくということになればよいと思っています。一か所にずーっといるという、事務に携わる人とかでそういう人はいてもいいんですけど、助成金の配布先の決定にかかわると考えると、10年、20年同じ人が関わっているというのはよくないと思います。
さっき久野さんが言った、「アートは変化を起こす」ということですが、それは変化を起こすためにアートの事業があると考えたほうがいいと思うんです。クリティカルマスという言葉があります。何かが臨界点に達していて、ちょっと手を加えれば何か全く新しいことが起こっていく。ある地方を誰かが見に行った時に、この地方で、この地域でなにかアート的なことをやると突出する、何か変化が起こるな、ということが捕まえられるかどうか。決して全国一律である必要はないわけです。イギリスのアーツカウンシルと同じことを日本でやろうとしてもうまくいかないわけです。いろんな事情が違うから。ということは日本の中でも地域ごとに、ひょっとしたら一つの県の中でも地域ごとにかなり事情が違う、その事情をうまく捕まえられるかどうか、それは地元の人よりも、もしかしたらほかの地域から来た人のほうがいいのかもしれない。そのなかで頑張っている人、芸術的な活動を使って何か変化を起こそうとしている人をうまく見つけられるかどうかだと思います。それに関わる人間が何年かごとに動いていく、ある地域で成功した人が動いていく体制があったほうがいいと思います。そういうかたちでは連携していくということはアリだと思います。
蓮池 専門人材が不足しているという言い方が適当かどうかは分かりませんが、そこを育成しながらも専門人材を増やしていくということが急務だと思います。
高萩 専門人材って言ったときに、アーツカウンシル的な専門人材とプロデューサー的な専門人材、それから実際現場で活動するアーティスト、これらの存在が結構重要なのです。アーティストははっきり自分がアーティストだと言っている人ばかりではないんですよね。アーティストとしては現場的にすごく突出していたとしても、制作とかほかの分野においても優れていたりするので、アーティストとしての才能が発揮できるような場所が用意されていたら急に才能を発揮するかもしれないけど、普段はサラリーマンやったり普通の活動している人が多いと思うんですよね。そこをうまく捕まえられるかどうかが大きいと思いますね。そのためにもこういう制度つくりを頑張ってほしいなと思います。
蓮池 また久野さんにお伺いしますが、変化を起こすための一つの境界点を見出してプログラムを組むということを続けてらっしゃると思いますが、そこは嗅覚であったり、経験であったりすると思います。これから若い世代が、地域版アーツカウンシルに雇用されるであろう、あるいは現在財団の中で活躍されているであろう人材が意識するべきことってどういったことがあると思いますか。
久野 どんな仕事でも必要とされる資質は共通していると思うのですが、コミュニケーションスキルが高いとか、ネットワークを構築していく力がある、知的好奇心が旺盛、コーディネート力があるといったことが特に重要かなと思います。もちろんあとは事務能力が高いということも必須です。今言ったことが重要だというのはどの業界でも共通なことですよね。さきほど高萩さんがおっしゃったように地域の魅力を見つけて、それに火をつけて盛り上がる機会を提供するとか、リサーチ力も重要かなと思います。実はジャンルに対する詳しい専門度はもちろんあったほうがいいですが、優先順位としては高くないかもしれない。それよりはむしろ、多様な人材のネットワークを自分の中にちゃんと持っている。このことだったら大学のこの先生に、このことだったら駅前のあそこのおじさんに聞いたらわかる、みたいなネットワークが作れるというのが大事かと思います。
蓮池 まさにプログラム・ディレクター、プログラム・オフィサーが持っている資質、社会で働くために重要なことではあるんですが、敢えて言うとなかなかそういったところに目がいかず、違うところに評価軸を置いてしまうきらいがあると思うので、アーティストとも違う、ディレクターとも違う、というところのなかでアーツカウンシルに必要な人材が何かということは地域でいろいろお作りになったり、ご自身がなっていくと思いますので、ぜひ本日の登壇者のご意見を参考にされるとよいのかなと思います。実務的な質問が入っているのでお伺いします。饗場さんへのご質問です。小規模の取り組みを応募されても採択とはなりませんと書いてありますが、小規模の基準はどのようなことでしょうか。
饗場 具体的に数字を示せればいいのでしょうが、数字は明示していません。ただ国の支援として、数十万単位まで金額が小さくなってきてしまいますといわゆる零細補助金という、専門的な言葉ですけど、零細補助金という扱いになってしまって本来そもそも国が扱うべき補助金ではないということを言われてしまいますので、ある程度の規模感のあるものに対して支援を行っていきたいということです。数十万円、数万円単位での申請が上がってきてしまうと、我々としては支援がしにくい、ということです。
蓮池 ありがとうございます。規模がどんどん拡大していく可能性があると思います。1年目、2年目、3年目と。そこから規模を拡大して申請していくということを想定していていいのですか?という質問が来ています。
饗場 規模拡大というのは例えば1年目が100万円、2年目が200万円、3年目が300万円というイメージでしょうか。そこは全くかまいません。当然事業を展開していくとなりますと、うまく転がれば事業規模は拡大していくと思いますので。小さく生んで大きく育てるという言葉もありますが、最初は小さく、2年目、3年目で大きくなっていきますよということであればかまいません。あくまでも2000万円の範囲で考えていただければ。1年目が100万円の場合に、じゃあ2年目も3年目も100万円ですという考えは全く持っておりません。上限の範囲内であればかまいません。
蓮池 自己負担金の額もありますが、上限の範囲内であれば2年目以降での拡大も可能ということですね。次はおそらく太下さんへの質問だと思いますが、2016年に実施される事業が正規の文化プログラムとして承認される可能性はあるのでしょうか。正規の文化プログラムとは何か、おそらくオリンピックの文化プログラムということだと思います。この正規の承認はどのように…IOC?
高萩 JOCでは?
太下 実際のところややこしいのですが、オリンピックの関連でいっぱい組織があるのです。2020年東京オリンピックに関しては、通称TOCOGと呼ばれる東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、森喜朗さんがヘッドのこの組織が日本の窓口というか、ステークホルダーなのです。この組織に対応するのがIOCで、実はこの二者の関係だけで決まるのです。つまり厳密にいうと、文化庁がオリンピックの文化プログラムを認定できるわけではないのです、現状のままでは。但し、さきほど言ったように文化庁が20万件の文化プログラムを実施するという基本構想を公表しています。そして、現実問題としてこの20万件をどこかで一極集中的に認定できる状況にはないのです。
おそらくですけれども、東京都内のものに対しては、東京都さんお願いします、東京都以外のものに対しては、まずは文化庁にお願いしますというような整理になるのだと思います。なぜかというと、組織委員会という組織は2020年のオリンピックのための時限の組織で収支構造は極めて特殊です。組織委員会の収入は政府からとオフィシャルスポンサーからの収入で決まっています。それ以上は増えません。いっぽう支出はこれから5年にわたってアンノウン・ファクターも含めて増えていきます。そういう独特の収支構造があります。そこのポジションに就かされたらどう判断するかというと、なるべく支出を絞るという方向になりますよね。おそらくですが、この組織委員会は文化プログラムを所管することは間違いないのですが、自ら直轄してお金も出すのは開会式と閉会式だけではないかと推測しています。それ以外のものについては、組織委員会は基本的にはお金は出せないと思うのです。そんな余裕はないのです。ですので、都内の分については東京都さんお願いします、それ以外については文化庁さんお願いしますという仕切りで基本方針みたいなものを作って、そこからようやくスタートになるのだと考えています。
また、文化プログラムの要件が作成されることになりますけど、合計20万件ですから、基本的にこれから日本で実施される文化イベント等を全部入れていかないと20万件にはなりません。ですので、非常にゆるやかに要件であり、政治的なこととか宗教的なこととか、ごくごく当たり前のことだけが排除されてあとは全部入るのだと考えています。それらが文化プログラムとして成立するためには、いわゆるオフィシャルスポンサー以外の企業も入ってもいいというグレーゾーンをIOCとの間でネゴシエーションできるかでどうかにかかっていると思います。このネゴシエーションがもしもできなければ、これは文化プログラムじゃないけど、なんとなく文化プログラムっぽくやっている「文化力プロジェクト」ですよ、ということになります。それでご質問の、今年2016年に実施される事業について言いますと、文化プログラムの期間というのは基本的にリオのオリンピックの閉会式の最後のハンドオーバーセレモニーが終わった瞬間からなのです。ですので、ハンドオーバーセレモニーの瞬間にやっていれば、文化プログラムになれる可能性はあります。ただ、繰り返しになりますがそれが厳密な意味での文化プログラムになるためには、TOCOGを経由してIOCが承認したものだけなのです。
蓮池 地域版アーツカウンシルができて、そこが何らかの認証をしてもそこが文化プログラムとしてカウントされるというスキームでは全くない、ということですね。
太下 ロンドン大会のやり方をもしもう一回認めてもらうのだとしたら、グレーゾーンはありますよということです。さらに実際の認定業務などの決済権限も下りていくでしょう。そういう状況も含めてIOCに内諾してもらうということですね。
蓮池 つまり認証する機関として地域版アーツカウンシルが位置しているということが叶えば…
太下 それが厳密にIOCがOKというかどうかは別として、実態上そういう風にやっていますということをIOCが内諾できるかどうかだと思います。
蓮池 東京にオリンピック・パラリンピックが来るということが決まってからいろいろなシンポジウムが開催されて、そのときにロンドンの文化プログラムが17万件だった、じゃあ日本は20万件というような話になって、今日の話では20万件やらなくてはいけないんだというようなことにもなっていて、その議論はもう終わってるんですかね…?
太下 いや、議論してもいいのだけど…(笑)その方向にエネルギー使うんだったらどういうプログラムをやるかを考えた方が建設的ですよね。
高萩 いや、実際数えたら20万件行くってことは自信があるから、20万件って東京都は言っていて、日本ってもともと文化プログラムって多いんですよ。お祭りとかを入れていくと全部数えていくと20万件は簡単に超えそうなんですね。結局20万件という数字自体には意味はないんです。
糸山 福岡県民文化祭の冊子も分厚いですもん。秋から冬にかけてですが、100個くらいありますよ。
高萩 その機会に、逆に半歩でも一歩でも先に行けるかどうか。
久野 この20万件というのはきっかけであるということですね。
太下 ちなみにイギリスの177,717件って、実は数え間違いなのですよ。ロンドン大会の文化プログラムに関しては分厚い報告書が何冊か出ているのですが、この17万件の内訳データが無いのです。一方で、それによく似た数字で117,717件の内訳は何回か出てくるのです。地域別、分野別などですね。そして、一か所だけ、17万件の内訳データの分野別の数値があるのです。あったじゃん!って思ったら、11万件の内訳と全く一緒だったのです。このことをどう思われますか? 私は誰かが転記ミスをしたのだと考えています。
一同 笑
蓮池 とにもかくにも数には意味がないということはみなさんと確認できたと思いますが、私たちもExplatで活動していて、2021というのがキーワードになっています。やはり東京にオリンピック・パラリンピックが来るときから、いい傾向だと思いますが「レガシー」という言葉が使われていて、単なるお祭り騒ぎではなくて、ちゃんと次につなげていこうということがみなさんの意識の中に浸透している印象があります。かつ、久野さんがおっしゃったように、文化庁もそういった意識でこのプログラムを作られている。とはいえ、助成は2020年度で終わるということですよね…。
饗場 趣旨としてはさきほど申しあげたとおりですが、やはり中身的に人件費的な支援になってきてしまいますので、恒久的に文化庁が支援できるかというと、それはできないので、期限を区切ってということになります。どこで区切るのかということを考えると、ひとつの区切りとして2020年、それからレガシーとして残ってほしいという思いはあります。
蓮池 セゾンのスタートアップで3年という区切りでいろいろなプログラムを組まれていますが、長短、短があるとは思いにくいですが、そのプログラムの組み方ということに関しては、自立していくところに持っていくためのプログラム・ディレクター、プログラム・オフィサーの仕事というのはどのようなものでしょうか。
久野 スタートアップ支援の事業は、アートNPOなどの非営利芸術団体の新規事業の立ち上げを支援の対象にしています。3年という区切りは、最初に計画してから事業が順調に乗るまで3年くらいかかるだろうということで設定されました。実際には3年経ったから自立できるというところはほとんどないというのが実情で、我々もここはよく考えなくてはいけないということで悩んでいます。日本には、アートNPOや芸術系の非営利団体の自立を支援するための助成プログラムがないんですね。今回のプログラムの新しい点は、事業ではなく新しい制度を構築するための準備、に資金が出るということと、2020年が終わった後にアートNPOなどの芸術文化系の芸術団体がなどがよりよく事業をできるよう支援の方法を考えていかなければならないとしていること。芸術文化系の非営利団体は、足腰が弱いんですよね。自分たちの収益を上げていく事業がなかったり…。アートNPOの「事業」には資金が出ます。でも、そのNPOを運営する「基盤」には資金が提供されないのです。基盤がしっかりしていなければ事業は継続していけないですよね。アートNPOも今多くが自転車操業です。常に事業を回してしていかないと継続していけないんです。これはやはり健全ではないし、無理をして、継続すれば疲弊していきます。さきほど「健康的で幸せに」という言葉がありましたが、やはり基盤に対して支援できる、たとえばアメリカのNPOはそういう寄付金を得て健康的に運営されている例が多いと聞きますが、日本でもそういう形をつくっていかないと、アートを支えるアートNPOをはじめとする非営利の芸術団体の力が無くなってしまうのでは、と思っています。
蓮池 アートNPOも地域版アーツカウンシルとイコールなところがあると思います。アートNPOで働いている人たちが雇用されていく、もしくはアドバイザーなどいろいろな形でかかわっていくということは起きてくると思います。今回の文化庁が提案されているこのスキームに対する補助が、そういったところに転化して活用されていくといいのかなと思います。
高萩 さきほど地域によって違うといいましたけど、全国一律でできそうなのが障碍者アートですね。日本では障碍者アートに関する制度つくりは非常に遅れているんです。ほかの国の場合は軍隊などがあって、アーティストも軍隊に行って帰ってきて、傷病したりした後、国の手当てが出たりすることがあります。日本の場合は今のところそういうこともなく、いろんな意味で制度つくりが遅れました。今まではアートに従事している人たちは基本的にアート好きな人たちが多かったと思うんです。演劇やダンスが好きな人たちが、マネジメントに回る割合が多くて、好きだから賃金が安くてもやるみたいなところがあったんですが、障碍者アートに関しては絶対に仕事でしかできない、安定してないとこういう仕事に従事するっていうのは難しいと思うんです。公共系が本気で障碍者アートに取り組む気があったら、ぜひ始めていただきたい。障碍者アートが難しいのは、我々も普通のアーティストと接していて、仕組みを整えても必ずしも良い作品が出てくるとは限らない。だから障碍者アートの仕組みを整えたとしても障碍者の方々からすぐに良い作品が出てくるとは限らない。そういった場合は、他の国から成功例を持ってきたりして、障碍者アートの意味について考える。そうすれば、地方議員や経済界の方々も見に来ると思うんです。普通のアートは見に来ない人たちも、障碍者アートだと来たりする。さらに作品が良ければそこからいろいろな関係が拓けてきたりしますので、アーツカウンシルを計画されている場合は、この今のプログラム・オフィサーのなかに障碍者アートの専門の方を一人入れてほしい。障碍者アートに関して、日本はすごく専門家が少ない、探しても10人、20人いないと思いますので、その人たちを何とか雇用して、彼らに成果を出してもらえればそこからすごい展開が生まれるだろうと思います。ここは未知数です。東京都も遅れています。実際、我々は障碍者に対して芸術鑑賞の補助で、字幕や手話を付けたりという形でやってきたんです。アーティストとして自立させるという、そういう活動はあまり手伝ってこなかったんです。音楽系はかなり進んでますけど、演劇やダンスはすごく遅れていて、演劇・ダンスの障碍者アーツは新しい分野だと思います。やり始めると大変だとは思いますが、やれば確実に成果はあると思います。
蓮池 ありがとうございます、お話の中に新しい視点がありました。もうひとつ質問がありました。英国アーツカウンシルの取り組みで、イングランド以外の地域の活動で今回のテーマに参考になることがありましたらご教示ください。
太下 おそらく、イングランドのアーツカウンシルは実は大きすぎて参考にならないということが前提の質問かと思います。確かにそれはその通りで、文化庁も日本版アーツカウンシルと言っていますが、その参照先はやはりイングランドで、その事例をみんなが見に行くわけです。さきほどご紹介した通り、2012年当時でフルタイム雇用だけで560名体制ということで、ありえないんですよね、日本にこういうものを作るのは。どう考えてもあれをモデルにすると活路がないな、という気がしています。イングランド以外をみても、スコットランドが約100名体制なのです。こちらもスケールが違うので参考にならないような気もしますが、若干参考になるという意味ではスコットランドのアーツカウンシルは2010年に設立されたのですが、日本にとって二つ参考になるところがあります。ひとつは、スコットランドの場合、2012年にオリンピックの文化プログラムを担いましたが、その後2014年にもコモンウェルス・ゲームスの文化プログラムも担っています。コモンウェルスというのは、旧イギリス帝国がかつて世界のたくさんの国々を植民地にしていましたが、その国とのネットワークが生きていて、それらの国だけで開催されるオリンピックのようなスポーツ大会のことです。そのコモンウェルス・ゲームスを2014年にやろうということです。これは2012年の2年後だということで、スコットランドの場合はオリンピックでやったことが人の体制も含めて2014年にいい形で繋がっていったのです。実は、あらかじめ2014年につなげていくことを前提に2012年をクリアしていったのです。これは非常にわかりやすいレガシーです。
もう一つ参考になったのはスコットランドで毎年10月に高齢者のアートフェスティバルをやっているのです。名称はルミネ―トといって、輝くという意味です。そして、10月の1か月間、スコットランド中で、今年度の場合428のプログラムをやっていたのです。中には小さなワークショップも含んでいますが。いくつか現場を見に行きましたが、実にひとつひとつはささやかに手作りでできています。高齢者自らが参加するが多数あり、ワークショップや高齢者が出演している演劇、蜷川さんのゴールドシアターのようなものもあります。現在の日本では、ロンドンのアンリミテッドで障碍者がフィーチャーされ、それと同時に、むしろそれ以上に高齢者の芸術参加は日本でこそやらなきゃいけないのではかないかと言われています。それはその通りだと思いますが、その一方で、ご存知の通り、日本は世界最先端の高齢先進国なので、高齢者が嬉々と文化体験しているということがなぜ日本はできていないのだろうということを強く思いました。こういったところをぜひ参考にしていきたいと思っています。スコットランドで、このようなプログラムができているというのも、イングランドのアーツカウンシルが560名という大きな階層組織であるのに対して、スコットランドは約100名とコンパクトです。スコットランドの人口は北海道と同じくらい、面積も似ているので基本的にフラットなのです。現場との距離感が近いほうがより現場に寄り添ったプログラムができるのだなぁということを実感しました。
蓮池 今日のテーマは「地域版アーツカウンシルに求められる役割」ということで、本日の議論のなかでいくつかカウンシルのあり方や、自治体の方が抱えている問題が出せたかなと思いますが、今後取り組む中でいろいろな課題が出てくると思いますので、本日ご登壇のみなさまに地域版アーツカウンシル、あるいはアーツカウンシルというものに対する期待、また、これから立ち上げようとされている自治体の方々へ向けてのお言葉があればお願いします。
高萩 さきほど太下さんがおっしゃった高齢者アートですが、いままでやっていない人たちがアートを活用し始めると、健康年齢を引き上げることができ、統計でうまく出せるか分かりませんが、地域の医療費が下がるということは実際にあるようです。そういった側面情報を出しながらやっていったほうがいいですよね。アートとは何なのか、若い人たちとディスカッションして、アートの良さをアピールするのは、私も舞台芸術に携わっていますがかなり難しいです。舞台芸術は一部の人しか見れないし、映画の上映のようにいくらでもたくさんの人が見ることは出来ません。今年の正月にスターウォーズを見に行って思ったのですが、はっきり言って映画がああなってくると、動員的もので勝つのは難しいですよね。ただ、映画の場合、とにかくすでに出来上がったものを見せてもらって楽しませてもらってるな、と思いました。テレビやゲームもそういう感じがあります。舞台芸術や絵とか、アートに関していうと、現場感、創造している人の目の前にいるということ、その辺をうまく使って、トライ・アンド・エラーができるアート、目の前で見れるし、参加できるということを舞台芸術の特徴として地域で浸透させることで社会が変わっていくのではと思います。アートがあることがいいことなんだと確信的に思っていないとできないと思いますので、ご自身でもワークショップを受けてみるとか、飛び込んでみてほしいです。ちょっと面白いのはさきほど採択数を限るということで、文化庁は昔は競争を嫌がったのに、最近は競争なんだな、と思いました。15のエリート自治体として、全国のモデルケースになりましょうということをうまくくすぐって、この際トップランナーとして飛び出して、いいモデルケースになっていただければと思います。東京都を代表しているわけではないですが、東京にある公共劇場としてもぜひ一緒に何かやっていければよいなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
糸山 地方創生という言葉だけがずいぶんニュースなどでも聞こえますが、今回のこの仕組みを聞いたときに、ああこれって文化版の地方創生なのかしらと私自身は思いました。うちがやっているホームレスの人たちに対する演劇ワークショップも、中に入っていろいろやってみると、川崎、名古屋、大阪から流れて最後に流れ着いたのが福岡だったんだなぁということがわかります。私が学生の頃は社会に演劇がコミットしている感が強かったんですが、最近は離れていると感じていました。今はまた別の形で、ワークショップなどでコミットできるんだなぁという感触を5年でつかみかけているところです。福岡では高齢者に対する演劇やダンス、高齢者施設での取り組みは少しだけあります。九州はやりたがりの人が多いので、自治体の方からすると、ちょっと言いやすい部分があると思うんです。そういうのを活用しながらうまく、この地域だったらこういうアーツカウンシルがいいんじゃないかみたいなデザインを国にお任せするんじゃなく、自分たちで連携してデザインができると、その取り組みそのものがいいものに活かされると思います。企業にも協力を呼び掛けていくときに、自分たちの町のものとして、手触り感をもって支援していただかないと。予算がなくなったら消えてしまうということが起こり辛い、減額されても続けてもらえる仕組みにしないと、最後は国のお金はもらえないということは分かっています。その工夫を各自治体でどうやってやるかは各自が考えるしかないので、せっかくのチャンスを生かす方向に考えていきたいと思います。お互いに頑張りましょう。
饗場 本日ひとつ言い忘れたかなぁという部分もあり、私の思いの部分でもありますが、文化庁のグローカル事業の傘の中の一つだという風に申しあげましたが、グローカル事業の申請は地方公共団体から上がってきます。そのなかで全く申請が上がってこない県が、ままあります。それは我々が文化行政をやっている中で寂しいなぁと思っているところで、さきほど高萩さんからも文化は非常にいいものだと思わなきゃいけないということもありましたが、申請があがってこないから文化事業をやってないということでもないとは思いますが、あまり活発に活動されていないのかなぁとは感じられます。本当にやっているのであれば申請が上がってきたりするのかな、と。そういったところが、これを支援させていただくことによって解消することができれば、いい方向に向かっていって文化政策が立案され、逆に申請が我々のほうにもあがってくるという循環に向かっていけるとありがたいなぁと思っています。また、いつ出来るか分からないんですが、こういった組織からたとえばグローカル事業のほうに申請が上がってくるとなれば、そういった取り組みは文化庁としては積極的に支援していきたいと思っています。構想なのでお約束はできませんが、そういう方向に持っていきたいと思っています。
久野 今お話を伺っていて、このプログラムの3年は次のステップへの準備期間に繋がっているということを強く思いました。太下さんの以前の論文に、自治体と地域の文化の担い手が両輪となって回っていかないと動かないだろうということを書いてあったと思うのですが、私が傍から見ていて心配なのは、自治体のほうがどうしても大きくてもう片方の車輪が下請けのように扱われていることが見受けられることです。このプログラムは両輪がまわっていかないと実現しないと思うので、ぜひこの3年間の準備で地域の文化に携わっている芸術文化団体やアートNPOが体力を蓄える3年間にもなればいいな思っています。
太下 最後に2つお話ししたいと思います。さきほど高萩さんが自治体に関係しそうな分野として障碍者アートということをあげられていました。私もロンドンの事例でアンリミテッドを紹介しましたが、今回の申請書には個別のところまで書くことは期待されていないと思いますが、実際に取り組むときにはいろいろ考えなければいけないと感じています。この分野は従来福祉の分野で取り組まれてきましたが、文化の分野もそうですが、福祉の分野はより独特の思いの方々が取り組まれています。この障碍者アートの分野で結構な活動は全国にあるのですが、それをつなぐネットワークや統一的な団体がないんですよね。おそらく過去いろんな方々がトライされたのではないかと思いますが、個々の人の思いが強すぎてできなかったのでしょうね。それだけちょっと難しい分野だと思います。
この分野は、単にいいことだよね、では一緒にやりましょうということだけでは難しいのでしょう。実際に、障碍と一言で言ってもいろいろな障害がありますよね。身体の障碍なのか、そうではないのか。そうでない場合も精神障害の場合は全く違います。また、名称もいろいろあります。障碍者アート、アールブリュット、アンリミテッド、エイブルアートという言い方もあって、ヨーロッパ圏ではエイブルアートという言葉もよくつかわれていますが、エイブルアートは障碍者アートとイコールではないのですね。ヨーロッパにいくつかエイブルアートの拠点的な美術館がありますが、そこのひとつであるフランスのリールの美術館に行ったときに、「日本の障碍者アートとエイブルアートは概念が違いますよね」と言われて、実際にコレクションを見るとなるほどと思いました。確かに障碍者が作った作品があります。ただし、それは一部であって、結構な割合で障碍者ではない人がつくった作品があるのです。それは何かというと、エイブルアートというものは専門的な美術教育を受けていない人の表現のことなのです。とはいっても、日曜画家とかが入ってくるわけではなく、ある日突然猛烈に絵を描き始めてしまったおじさんとかがふくまれるのです。フランスでは「シュヴァルの理想宮」が有名です。この作者のジュバルはある日、石に躓いてその石を見て何を思ったか小石で自分の理想的な宮殿を作り上げようというのを長年かかって作ってしまったのです。エイブルアートには、そういう作品がかなりの割合を占めているのですよね。なので概念が違うのです。そういういろんな難しさを抱えているので、障害者アートはとても大事で、2020年に向けてフィーチャーされるべき分野ではありますが、取り組まれるときにはぜひ慎重に取り組まれるほうがいいというのが一点目です。
二点目は、さきほど蓮池さんがおっしゃた「レガシー」という言葉についてです。レガシーというのはIOCが非常に重視しているキーワードです。よく日本語では世界遺産とかの遺産と訳されますが、この遺産という言葉には英語でHeritageという言葉もあります。Heritageが現在から見て過去の遺産という概念なのに対し、レガシーは過去から現在、そして未来へ継承するという時制の概念だという風に私は理解しています。このレガシーをなぜIOCが重視するかというと、ジャック・ロゲという前のIOCの会長が提唱したものです。ジャック・ロゲは自らがオリンピアンだった経験も踏まえて、オリンピック自体がスポンサーシップの中で肥大化していく中で、オリンピックとはどうあるべきか原点に返ろうということを提唱し、そのなかでレガシーという言葉が出てきました。ジャック・ロゲは医師でもあったのでドーピング撲滅も重視し、それとともにあまりにも肥大化したオリンピックの本来の姿を求める中で文化プログラムの重視という方針が出てきたのです。これはクーベルタンが言った「オリンピックは、スポーツと文化と教育の融合だ」という哲学の実践でもあります。文化の分野で考えてみると、2020年まではいろいろなお金が流れてくるので、それなりに文化業界全体として回っていくような気がするのです。ただ問題は2021年以降のことで、さっきの饗場さんのお話にもありましたが、このオリンピック文化プログラムは確実に終わりますし、それ以外のいくつかの事業も終わります。2020年までのきちんとした運営計画がないと、こういったさまざまな補助金は毒まんじゅうになってしまいます。食べればおなか一杯になるのだけれど、あとから毒がまわってみんな死んじゃうということです。それではレガシーがない状況です。レガシーを残すためにどうするか、ここで雇用する専門人材を2021年以降雇用し続けるにはどうしたらいいかを各地域で知恵を絞ってほしいというのがこの事業のそもそもの真意なのです。ぜひレガシーを各現場で考えていただきたいと思います。
蓮池 今回のこのタイトルに引き付けて考えれば、なぜこれが長年にわたり議論され生まれてきた仕組みであるのかということ、原点に返って2021以降の文化政策をどうとらえるか。その時点で今2016年で何をすべきかということをやはり考え続けていくことかと思います。
Explatでは、シンポジウムはひとつの提言でもありますし、きっかけだとも考えています。次年度この採択された自治体が少なくとも5つは出ますので、そういった方々をまたお招きし、ある種の検証をし、次の申請、あるいは次のステップに踏み込めるようにExplatとしても仕掛けていきたいと考えております。